病院経営について。
私が大学病院を辞めて、今のクリニックに移ることを決めた時、送別会で指導教授から「越村君はクリニックの経営より大学で好きなことをやっている方が向いている。経営者には向かない。」と言われました。
私も全くその通りだと思って聞いていました。
その私が経営責任者となった現在も、このクリニックの経営は決して楽ではありませんが、何とか経営を維持しています。
これは私に優れた経営手腕があったからではなく、日本の医療保険制度のおかげだといえます。
一般の商売と医療経営は大きく異なります。
第一に薬や手術や処置は全て金額が定められており、値引きは一切ありません。
従って他業種のような価格競争をする必要がありません。
しかも、保険制度のおかげで患者さんは、実際にかかった費用の7割引で大体の薬や手術や処置が受けられるのです。
つまり医療の世界ではライバルと全く同額で、毎日7割引のバーゲンが行われているのです。
ですから、よほどのことがない限り患者さんは最寄りの医者にかかるので、開業医は他の業種のように倒産することなく、運営できるのです。
この点を私達医師はよく自覚して、医療に真面目に取り組むべきです。
病院の経営が何とか軌道に乗ったからといって、他の業種に手を伸ばすと必ずしっぺ返しを喰うと思います。
もし、他業種で成功したとしたら、経営手腕があるのですから医療以外のもっと収益性の高い事業に専念する方がいいと思います。
マネーゲームにうつつをぬかすことなく、身の程知らずに営利主義の病院を作ることなく、謙虚に真面目に医療に専念するなら病院は維持できるはずです。
私は今のクリニックの経営責任者になり、色々と悩んでいると同僚が「食べていければいいじゃないか。」と言ってくれました。
その一言でどんなに気持ちが楽になったかしれません。
もしこれでも病院が倒産するなら、
それは医師の責任ではなく国の責任と言うべきではないでしょうか。