独り言

突然の引退 ~引き際について~

お笑い芸人

突然の引退 ~引き際について~

院長のひとりごと76

辞めて欲しいと思うのに、なかなか辞めなかった総理大臣と、辞めて欲しくないと思うのに、辞めてしまったお笑いタレントを見ていて、引き際について改めて考えさせられました。
かつて私は患者さんを診ない、基礎医学の研究室に10年近くいました。
教室には理学部、農学部等の優秀な学生も多く集まっていて、その輝くばかりの才能を目の当たりにして、眩しく感じていました。
自分なりの研究活動をしてはいましたが、臨床の教室からの誘いがあった折、迷わず優秀な後輩に席を譲りました。
とかくクセのある人の多い基礎医学の中では、能力はともかく、とっつきやすい方だった私は、後輩たちに惜しんでもらいましたが、未練はありませんでした。
もう何も産み出せそうにない、アイディアが枯渇した状態なのに、教授になろうともがいている人も、教室にはいましたが、そんな人が教授になったら教室員は地獄です。
教授になることはゴールではなく、自分と教室員を開花させるスタートだと自覚すべきです。
私は臨床の教室で指導教授から絶大な支援を頂いて、自分の基礎医学での経験を臨床の研究室で生かす努力をしました。
約10年の研究期間に多少の成果もあり、このままこの臨床の教室に居続けることが、自分にはこの上なく居心地のいいことでしたが、ここを去る時も迷い無く決めました。
臨床の教室では、患者さんを相手にすることが最も大切です。
私は臨床の教室で、最も患者さんと離れたところで活動していましたから、10年近くもいられたことは奇跡です。
指導教授には今も心から感謝しています。
今でも当時の仲間に会いたくて、年に一度は会いに行っています。
私をこの教室に呼んでくれた同期の男も、私と機を一にして辞めましたが、彼は教授を目指して欲しかった惜しい人材でした。
彼には彼の美学があったのだと思います。

お笑いタレントの突然の引退会見を見ていて、これは自分の価値観と芸能界の価値観の決定的な乖離に対し、自分の美学を貫いた怒りにも似た筋の通し方だなと感じました。
胸を張って会見場を後にするこの人に、私は惜しむ気持ちを込めて拍手を送りました。

2011年9月19日