自律神経失調症
自律神経は、生命を維持する上でもっとも重要な神経です。
心臓の拍動、血圧、呼吸、消化管運動、排便排尿、唾液、涙、気管分泌、等を調節しているのは全て自律神経です。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、両者は通常正反対の作用をします。
たとえば、心臓の拍動を交感神経は増加させ、副交感神経は減少させます。
一般的に、交感神経の働きは、戦うときの準備状態といわれています。
つまり、戦うために筋肉に血液が行き易いように、心拍は増加し、酸素を沢山取り込むために呼吸は速まり、傷をしても出血が減るように血管は収縮し、便意・尿意を戦いの最中催さないように、排尿排便は抑制され、下痢などしないよう消化管運動は抑制されます。
涙や唾液の分泌も抑制されます。
副交感神経はこの逆です。
自律神経の自律とは、自分の意志とは関係なく働くという点からの名前で、自分の意志と関係なく心臓を拍動させているというわけです。
この様に、生命に直結した神経ですから、この神経が失調するということは大変なことなのです。
例えば血圧調節を司る自律神経の失調があると、軽くて立ちくらみ、重くなると起きあがるだけで失神するため寝たきりになります。
つまり、簡単には失調する事はないといえます。
にもかかわらず、「自律神経失調」と診断されたといわれて来院される患者さんが実に多いのが現実です。
自律神経は、戦いの準備をする神経という点からは、自分の精神状態と密接に連動して働いていることも事実です。
ですから、強いストレスを感じるとこれと戦うために、自律神経が過剰に働くことが予想されます。
その結果、多彩な症状が出現することになります。
しかし、これは自律神経失調症というより、強いストレスに対する生体反応であり、正常な反応の延長にあるものといえます。
多彩な症状を訴えて来院される患者さんで、はっきりとした身体の異常が見つからないとき、「自律神経失調症」という病名は患者さんに病状を説明する上で大変便利なため乱用されるきらいがあります。
多彩な症状を訴えられる患者さんにはその背景にあるストレスを見つけだすための問診が不可欠であり、往々にして問診により症状が改善する場合があります。
また、安定剤、抗うつ剤等も最小限度で済ませられます。
自律神経失調症とはそんなに簡単に起こるものではなく、起これば生命に関わりかねないことを、医者も患者さんも理解していただけるとありがたいと強く思う次第です。