降圧薬
院長のひとりごと104
私は血圧が高いので降圧薬を服用しています。
ディオバンをかつて服用していました。
大変よく効いた印象があります。
この薬に関する論文ねつ造が世間で注目されましたが、降圧効果に関しては疑う余地はないと思います。
これはディオバンを含めたARBと呼ばれる降圧薬全体に言えることです。
製薬会社は自社のARBの差別化を図るために、降圧効果以外の効果をアピールしようと躍起です。
その結果行われているのが大規模疫学調査です。
つまり、多施設の患者さんに薬を飲んでもらい、飲まなかった患者さんとの間で脳卒中や、心筋梗塞等のイベントの発生率に差があることを示す調査研究です。
私は以前ネズミを使った実験を行っていました。
使われたネズミは実験用の純系ネズミです。
つまり近親交配を繰り返して、遺伝子的にきわめて近いものとした動物です。
ですから、ネズミ個々の個体間の差を考えなくて良いという仮定の下で実験を行えたわけです。
しかし人での研究では、そもそも個体差を無くすことなど不可能です。
日本人といっても千差万別です。
ですから製薬会社が必死で行っている疫学調査で差が出ても、差が出なくても、どちらにしても薬の影響と直接結びつけていいと極論するのはいかがなものでしょう?
臨床の場面では、統計的な差異をどのように考慮すべきかは医師と患者さんとの判断に委ねられていると思います。
成功率50%以下の手術を選ぶこともあるし、100人に1人しか効果のない薬でも、自分の患者さんが100人目かもしれない、と期待する医師は少なくないはずです。
論文ねつ造の是非は論ずるまでもないことです。
しかし、臨床の場において、一人一人の患者さんの命を考えるとき、患者さんも医師も、論文で示される統計的な差異など、さほど考慮していないのではないでしょうか。
目の前の医師が、過去に自分と同じ病気の患者さんを治療した事実、あるいは、目の前の患者さんに処方しようとしている薬が、かつて同じ病気の患者さんで、効果があったという医師の経験、それが例え1例しかないものでも、遙かに貴重で重要だと感じます。
2013年10月20日