【 貧血管理 】
透析患者さんでは貧血は、ほぼ必発の合併症です。
【腎性貧血】
先にも述べたように、腎臓は造血ホルモンであるエリスロポエチンの産生部位ですから、慢性腎不全では腎性貧血が発症します。
【 腎性貧血の治療 】
腎性貧血の原因であるエリスロポエチンの欠乏を補うことで、腎性貧血は改善します。
現在は合成エリスロポエチン誘導体が主に使われています。
【その他の貧血の原因】
腎性貧血以外にも下記のような原因で貧血が起こってきます。
1. 赤血球を作る材料(鉄・アルブミン)不足
赤血球の構成成分であるヘモグロビンは、鉄を含むタンパク質です。
従ってその材料となる鉄やタンパク質が不足すると、赤血球が産生されず貧血となります。
当院では鉄代謝のマーカーとして血清鉄・フェリチン・トランスフェリン飽和度(TSAT)を測定して鉄不足を評価しています。
タンパク質不足の指標として、アルブミン測定を行っています。
当院では鉄不足が認められば、鉄剤を投与しています。
タンパク質不足のある場合は、アミノ酸製剤や栄養剤を投与しています。
2. 赤血球が失われている可能性
最も多い原因は消化管出血です。
当院では便潜血検査を行い陽性ならば、胃カメラ・大腸ファイバーを検討します。
悪性疾患に起因する貧血を検索するため、腫瘍マーカー(AFP, CEA, Ca19-9等)も測定します。
血液が、体内で壊れていく溶血性貧血に関しての検討が必要な場合もあります。
3. 骨髄機能が低下している場合
透析患者さんで、時に見られるのが骨髄異形成症候群と呼ばれる骨髄の機能が低下する疾患です。
この場合赤血球だけでなく、白血球、血小板も低下しています。
この疾患は白血病に進行する場合もあり治療に難航します。
【貧血の治療目的値】
貧血の治療目標としてはHb(g/dl) 10以上12以下が目安となります。
Hbが高すぎるとシャント閉塞の原因となるので注意が必要です。
【副甲状腺機能亢進症・高リン血症管理】
血液中のリンは尿中に排泄されます。
排尿が無くなる透析患者さんでは、尿からのリン排泄が消失するため高リン血症を来します。
また腎機能の低下により、腎臓でのビタミンDの活性化が障害され、消化管からのカルシウム吸収が減少し血中カルシウム低下が起こります。
血中カルシウム濃度が低下すると、副甲状腺ホルモン分泌が増加し、血中カルシウムを増加させようとします。
この際カルシウム源として骨を利用するので、骨からのカルシウム溶出が起こり、結果として骨がもろくなるのが透析患者さんの特徴です。
このような病態を二次性副甲状腺機能亢進症と呼びます。
【高リン血症の治療】
1. 食事管理
リンの排泄は尿からなので、透析患者さんでは食事でとったリンは排泄されず、高リン血症を来します。
この予防にはリンを多く含む食品の摂取量を控えることが最も有効です。
リンを多く含む食品は図のようなものになります。
2. リン吸着剤
リンを多く含む食品は、タンパク質を多く含む食品が大半です。
透析患者さんでは、栄養障害が深刻な問題となるため、できるだけタンパク摂取は多くすることが望ましいといえます。
低栄養は透析患者さんの生命予後に重大な影響を与える因子です。
従って、リンを多く含む食品であっても摂取をすることが大事です。
その上で消化管からのリンの吸収を抑える薬で高リン血症に対処するようにします。
この薬は便秘を来すので、患者さんには飲みにくい人も多いのですが栄養状態維持のため必要不可欠な薬です。
【副甲状腺機能亢進症の治療】
高リン血症が引き金となり、二次性副甲状腺機能亢進症を透析患者さんでは来します。
これは骨をもろくしたり血管の石灰化による動脈硬化の進行を来したりするやっかいな病態です。
そこで高値となった副甲状腺ホルモン(PTH)を下げる種々の薬剤を投与することになります。
主なものは以下の通りです。
1. 活性型ビタミンD製剤
ビタミンDは副甲状腺からの副甲状腺ホルモンの分泌を抑えます。
この薬は血中のリンおよびCaを上げる効果があります。
2. 副甲状腺のCaセンサーに作用する薬
副甲状腺のCaセンサーを刺激して副甲状腺ホルモン分泌を抑えます。
この薬には血中のリンおよびCaを下げる効果があります。
【高カリウム血症管理】
血液中のカリウムバランスも腎臓の司る機能の一つです。
透析患者さんでは、尿中へのカリウム排泄が障害され高カリウム血症を来します。
これは不整脈による心不全の原因となります。
1.食事管理
高カリウム対策は食事管理が最も有効です。
カ リウムを多く含む食品の摂取には十分注意する必要があります。
リンを含む食品にもいえますが、注意するというのは食べないようにするという意味ではありません。
栄養障害を避けるためには、リンやカリウムを多く含む食品も摂取する必要があります。
大切なのは摂取する量を間違えないことです。
2. 調理 ゆでこぼし
カリウムを多く含む食品では、調理方法によりカリウムを減らすことができます。
ゆでこぼしや水につけておくだけでも水溶性のカリウムは減らすことができます。
3. カリウム吸着剤
リンと同様に消化管からのカリウムの吸収を抑制する薬があります。
必要に応じて使います。
この薬は災害時透析間隔が長くなってしまう時のための、非常用薬剤として必須のものです。